まずは昨日書かなかった読書感想文からドウゾ。
伊坂幸太郎『チルドレン』(講談社

 伊坂さん、改めて大好きになりました。ほんと、会話の一つ一つに真摯な色気を感じます。言い方が微妙なんですが、登場人物がみんな真面目に言うべき言葉を推敲している雰囲気で、格好いい会話になってる…という印象です。人を試したり、ふと吐露する呟きに、ドキドキしました。そういう意味での、「色気」です。

 吉川英治文学新人賞作家で、伊坂さんは“これから”どんどん売れてくる人だと思うのですが、今回の話は、一般的に見ても、凄く評価が高いような気がします。素直に、すっと、面白いし、カッコイイ。優しいのに男前。厳しいのにコミカル。本当に素敵だと思います。

 この話は、短編集の形を取った長編小説なんですが、どれもこれも、「こういう奇跡もあるんじゃないか?」という帯の文句がぴったりです。特に、「チルドレン2」が好きです。奇跡ってそうそう転がっていないから、人間ってくじけそうになるんですけど、だけどたまにあることも知ってるから頑張れるんだよな…としみじみ思いました。

 そんな奇跡を冗談みたいに「絶対」だと決めつける陣内さんが、私は愛おしいです。友達にはなりたくないですけど。振り回されている鴨居さんが可哀想に

思えます。でも結局仲良しなんだよね。結局はその奇跡を信じてしまっている。誰でも、その魅力に取り憑かれるのだろう、と私は思いました。

 でも一番素敵だったのは、全盲の永瀬くん。格好いい。姿形もさることながら、その会話のセンスと、頭の良さが。これは多分「純文学」の類なんだろうけれど、彼がいることで、十分にミステリとして成立するな、という感じです。その盲導犬のベスに嫉妬してる優子ちゃんも可愛いし。でも彼が内包している苦労とか、そういうのは日常において実はどうでもいいことにしとくべきで、勝手な同情は余計な差別を生む、というのもよく分かったような気がします。

 盲導犬を連れて目の見えない永瀬に何故か街の人は過剰な同情を寄せてくる。その日、5千円札を握らせてきたおばさんに、永瀬は「いつものこと」と済ませるんだけど、陣内は「なんでお前だけなんだよ」とナチュラルに怒る。おばさんとしては目が見えないから親切心で…ということなんだけど、陣内は「そんなの関係ないだろ」と大激怒。自分も欲しいというのです。その様子が、ほんとに、ばかばかしい程に自然に書かれていて、笑えました。陣内の人間の大きさが、すげぇ、と思ったんです。

 そして、そんな素敵な登場人物を生み出した伊坂さんにも、すげぇ、という讃辞を。ほんと、この会話文の感じ、真似したいです。

チルドレン

チルドレン