伊坂幸太郎『ゴールデン・スランバー』(新潮社)

 あちこちにちりばめられた、他愛もない伏線が綺麗に収束していく様は、本当に伊坂作品ならではのものだと思います。「あ、明らかにコレがラストに関わってくるな」という置き方じゃなくて、日常の何気ない会話だとか関わった人間だとかが、ふとした瞬間に、それこそ思い出したように出てくる。それがストンとパズルのように填るものだから、心地よくて仕方ない。「こういう奇跡があったっていいじゃないか」が伊坂作品共通のキーワードだと私は思っているのですが、今回はそれに「愛おしい」を付けたいと思います。「愛おしい奇跡の紡ぎ手」。うん、まさにそう。周りの人が温かいのは、その人が温かいから。青柳さん、人徳だねぇ…と終始ほっこりした気分になれます。
 身に覚えのない首相暗殺事件の容疑者にされ逃げる主人公。そして疎遠になりつつあった彼の昔の友人達。その2つを軸にして物語は進んでいきます。確かに、テーマとしては非常にありがち。逃げ切れるのか、真相は一体何なのか…というのが読み所。でも後者はこのさい、どうでもいいんです。信頼を武器に、彼は逃げ切れるのか。それだけ。それだでこんなに読ませるんだから、凄い。携帯社会が怖いなぁ…とも思わせてくれます。自分なんて消しようがないんじゃないか…なんて。
 それから「最後のページの一文に涙しますから」…と昨日アナウンサーが豪語してましたが、それは大きく首を縦に振りたい。確かに!!です。認めてもらえるような生き方をしている人がいったい何人いるんだろう…。信じる人が信じてくれている、その愛おしい奇跡は、しっかり胸に刻み込まれました。

ゴールデンスランバー

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