神山裕右『カタコンベ』

 まずは感想文から。
神山裕右カタコンベ』(講談社
 第50回江戸川乱歩賞受賞作です。乱歩賞には外れがない、というのが私の中での定説になっているのですが、今回もまた、ページをめくることをやめられないような状態で読み進めることができました。

 新聞で顔写真付きのコメントを見た瞬間から「お、顔カッコイイじゃん。おおっ、同い年かよ〜」とびっくりしていたのですが、これが、ほとんど資料を読んだだけで書かれた話、というのにも驚きです。ネットや、本だけでこんなに知らない世界を描けるのは、それなりの想像力と文章力があってのことだと思います。もちろん、専門家が見たら「けっ」って思うことなのかもしれませんが、経験のない読者からしたら、きっと「これは作者、結構ケイビングに精通しているんだろうな」と思うはずです。確か、ダイビングもやったことがない…と彼は話していたような…。凄いです。圧巻です。

 洞窟探検…というと、どうしてもアドベンチャー小説的なイメージを抱いてしまいますが、実際はそんなことはないのですね。常にそれは危険と隣り合わせで、暗闇との戦いなのです。そんな自然に翻弄される中で起こる事件…。その“ミステリ”としてのネタはイマイチかもしれませんが、多分、作者はそこに重きを置いていないのだと思います。乱歩賞でそんな…という気がしないでもないのですが、今回は許します。それ以上に、彼等の抱いている“贖罪”“復讐”の念が上手に描かれていたと思うので…。そして、そのケイビングの様が、初めて読んだものなのでドキドキしました。暗闇と水からなんとか脱出しようと頑張る様子がどんどん読み進めさせてくれた原因でした。確かにまだまだ荒削りかもしれませんが、神山さんの物語を面白く見せるという意思には乾杯したいです。

 最後のシーンでは泣いてしまいました。誰かに救われた命を、どう繋ぐか…どうやって、未来を見据えるか…シンプルだけれど、王道だけれども、心に響いてきました。

 難を言うなら、最後はもうちょっと書き込みして欲しかったな、と思います。その後の様子とか…。ちょっとだけ心残りな感じでした。

カタコンベ

カタコンベ