坂木司『青空の卵』『子羊の巣』『動物園の鳥』
荒んだ心に染み入る優しい物語でした。万人向け。読みやすく、メッセージも読みとりやすい。人間の優しさを再確認するような素敵なミステリです。死体がゴロゴロしているようなモノばかりを読んでいるので、たまにこういう人が死なないミステリを読むとほっとします。しかも登場人物がびっくりするくらい良い人達でさ。人間捨てたもんじゃない、と思いました。
引きこもり探偵、鳥井。彼の行動理念が最初の方は哀しくなるくらいでした。全ては坂木の為。自分の為じゃなくて、坂木が幸せであるためだけに頑張るのです。そうすることしか自分を表現できない…みたいに読みとれました。それでも坂木が泣くと、オロオロとただ自分も泣くしかできなくなる不安定な子供なのです。彼のおいたちから、中学時代のイジメまでを考えると仕方がないのですが、それでも坂木第一主義な所に胸きゅんなのです。最終巻で彼はほんの少し、引きこもりから脱却します。ようやくスタート。だけど、物語はそこで終わり。なんだか切ないです。
主人公坂木司。彼の行動と考え方を読んでいると、自分が恥ずかしい人間に思えてきます。普通に良い人なんです。悪意とかなくて、清廉潔白というか……優しくて誠実。だから利用されてしまうこともあるんですけどね。でも美しい心の持ち主だと思います。鳥井に関することは少し屈折していましたが、それでも、彼が正しく生きているからこそ、沢山の善人が集まるのだと思います。やたら泣きますが(笑)
「そのままでいいんだよ」と語られることは多いです。だけどこの物語は違います。「もう一歩前に」常にその意識でメッセージが込められています。「勇気を出して、もう一歩前に」です。あるいは「大丈夫だから、怖がらないで一歩前に」……成長しろ、と言うのです。その真正直さが心地よい。下手な屁理屈は一切ありません。だからこそ、作者もきっと優しい人に違いないと思うわけです。
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