今また同じ風が吹く〜日吉蘇枋のための物語第三章vol.5〜

透子の覚悟に付き合うと言ったのは自分で、利用されつくしたいと宣言したのも自分。
だから、未来が途絶える今際の際まで、自分は彼女の理想の「日吉蘇枋」でいなければならなかった。

…そう、自分に課したのだ。

きっと彼女の中の自分は、こうであるだろうという像を、演じ続けた。
自分は気付いていなかったが、それはただの虚勢で、おかしくなりかけていた自分を支える唯一の方法だった。



「蘇枋さん、獅子座のラッキーカラーはピンクだって」
ほとんど手つかずの昼食を誤魔化すかのように、透子はテレビに注目しろと指を差した。
音は極力まで押さえられていたが、可愛いキャラクター化された星座達が運動会をしているような映像が目に入った。
「占い?」
「ナースの竹中さんが言うには当たるらしいの」
「おまえ興味ないだろ、こういうの……?」
透子は世間一般の女性の感覚とはかけ離れている。こういう言い方をすれば語弊があるだろうが、いわゆる「女子どもが好きそうなモノ」にさほど食いつかない。
一緒に暮らしている時、こんなことを聞いたことは一度もなかったし、むしろ小馬鹿にしている節があると思っていたが…
テレビの画面では、最後に凄い勢いでヤギが双子と牛を抜かしてゴールしていた。順位まで付いているらしい。
「病は気からって言うじゃない?」
「意味がわからない。占いや祈りで病気が治ったら、俺は食いっぱぐれるぞ?」
まぁだから新興宗教というのがなくならないのだろう。
何かにすがりたいという気持ちは、分からないではない。

そうして没頭できる対象があるのは、うらやましさを通り越していっそ妬ましい。

「で、今日はパジャマがピンク色のようだけど、ちょっとは気分が良くなった?」
「さて、どうでしょう?」
透子はそう言いながら、そっと目を伏せた。


星座などに疎い俺は知らなかった。透子は自分の星座ではなく、俺の星座を見ていたのだ。
負担に感じない程度に、だけど少しは気を紛らわせることができる「すがりつく何か」まで提供してくれようとしているとは思いもしなかったんだ。


自分はとにかく後ろ向きでも、他人には前を向けと諭す理不尽な透子の優しさは、後になってから気付くものが多かった。