まずは感想文。

奈須きのこ空の境界 上』(講談社ノベルス
     『空の境界 下』(講談社ノベルス
 読みました。日記でもしょっちゅう漏らしていたことですが、これを高校時代に読んでいなくて良かったと思います。きっと自分の作品に凄い影響を与えただろうから…。凄いビビッドカラーでガツンと衝撃を与えてくる書き方です。印象的と言う言葉は似合いません。むしろ、鮮烈な世界観で魅了…というか支配してしまう作品です。だから好き嫌いははっきりと分かれるものだと思うのですが、私は結構面白かったと思います。

 両儀式という“直死”の魔眼を持つ少女が、ナイフで全ての存在を“殺して”いく……あらすじを見て、そんなおどろおどろしい話かと思っていたら、ちょっと様相が違いました。それはひとえに黒桐幹也の存在があったからだと思います。普通の、ごくごく一般的な考えの少年。普通でないモノは、やっぱりそういう普通に生きることが羨ましく、妬ましく、そして同時に護りたいと思うのでしょうね。私は怪奇譚で似たようなコトを書きましたから、その設定が嬉しくてなりませんでした。普通に生きることって…きっと、難しいと思います。そんな普通でない式と普通な黒桐の関係が、アンバランスで、だけどそこだけが救いで、それでも怖くて、けれども安心できて…そんな不思議な感覚で読めました。黒桐を殺したくて殺せない、そんな相反する感情の式が凄く切ない感じがしました。

 人形作りの魔術師蒼崎橙子さんは素敵でしたね。男前で。特に「矛盾螺旋」での活躍は格好良かったです。彼女もまた、魔術師としての在り方に悩みを持っているのだと思うのですが…おそらく、人間の中の魔術師として、一番真実に近い所にいるんではないかという気がしました。そう、誰よりも。世界のどうしようもなさを痛感し、達観している彼女こそが。だけど、彼女はそれを望んではないだろうな…という気がしました。

 ラストの「殺人考察(後)」では泣いてしまいました。そんな泣く話だとは思っていなかったので、かなり意外でしたが…。式の感情が切なくて、痛くて、苦しくて、ぽろぽろと。それに対する黒桐の言葉も、ゾクゾクしました。そこで終わるのも一つの手だったかと思うのですが、きちんとハッピーエンドになっていたので良かったと思います。でも死にオチでもそれはそれで納得できたかな?

空の境界 上 (講談社ノベルス)

空の境界 上 (講談社ノベルス)

空の境界 下 (講談社ノベルス)

空の境界 下 (講談社ノベルス)