新堂冬樹『忘れ雪』

 まずは感想文。…ま、つまり昨日から読書ばっかしてたってわけです。
新堂冬樹『忘れ雪』 角川書店
 母が借りてきた本をまた先に読ませてもらいました。はっきり言うと、私は新堂さんという人の作品は少し読まず嫌いしている部分があります。どうも金融とか、ヤクザとか、そういう黒くてドロドロしてる感じの話が多いみたいな雰囲気があるから。救いがないようなヤツね。でもこの作品が書店に並んだ時、私は正直びっくりしたのです。「なんだなんだ、新堂さん、どういう心境の変化だよ?!」と…。すごく優しげな色遣い、青いグラデーションに雪の降る中、レトリーバーの子犬。明かに、温かい話だと表紙が物語ってました。それだけで、前から読みたいと思っていたのです。

 今、世間は純愛ブームらしいですが、それに負けず劣らずの純愛でした。小学生の女の子が、優しくしてくれた高校生のお兄さんを好きになって…そんな序章だけで、もう十分にうっとりするくらいの作品なのですが、途中も一気に読ませました。子供の頃の結婚の約束。覚えていない桜木先生に必死でサインを送る深雪がいじらしくて、それで切なかったです。だけど、思い出し、八年越しの思いを知ってからの桜木先生は格好良かった。再びの約束を手紙に記して外国に行ってしまう深雪。彼女を一年待ち、その約束がかなえられなかった以降の先生は、本当に素敵でした。何もかも、投げ捨てて、それでも深雪と会いたいと思う彼の強い心が、胸を打ちます。それに付随する、彼の親友の鳴海さん、そして弟の薫、彼等も凄く良い人達だったと思います。

 これは読んで損はないと思います。確かに、簡単に忘れてしまうような内容ですが、それでも一時の心の栄養剤にはなる。こういう奇蹟だって、信じたいですものね。

 ラストについての感想…これはネタバレ激しい話題なので反転。↓

 傷だらけになりながらも、深雪と再会を果たした桜木先生の言葉に、涙が溢れました。「君だけは、失いたくない」というシンプルな言葉に、号泣。そして「君が奇跡を待つことに疲れたら……僕は喜んで、地獄へでもどこへでもお供するよ」というセリフ。…人を好きになるって、こういうことかもしれないなぁ、と思いました。頑張って、それでもダメだったら…だけど、一緒にいる。そして、忘れ雪に願うのは自分の無事ではなく、相手の幸せ。……死にオチって、王道で、だけどやっぱり純粋に涙腺にきますね。素敵でした。

忘れ雪 (角川文庫)

忘れ雪 (角川文庫)