西尾維新『零崎双識の人間試験』

 はい、そういうわけで感想文いってみよ。
西尾維新『零崎双識の人間試験』(講談社ノベルス
 ようやく西尾さんのフィールドに帰ってきた!!と思いました。どうも「妹萌」も「JDC」も実は言うと少し苦手な気持ち悪い感じがしたので……ほら、実験的な試みって…何だって不安定なものですから。

 そういうわけで、戯言シリーズに戻ってこれて私は嬉しい。…いや、これは戯言シリーズじゃないのかな? 番外編という感じか? 多分こういうのを書かないとフェアじゃない、と作者は思ったんだと思います。戯言遣い主体の物語があるなら、殺人者達主体の物語もあって然るべきだ、と。といっても、彼らに救いを与えるような物語ではないのです(そんなもの、彼等も求めていませんし)。単に、カメラワークの問題ですね。撮っているものを出さないのは勿体ない…そんな感覚ではないでしょうか? でも期待以上にそのカメラマンは上手に撮ってました。ええ、いーちゃんを撮るのと同じくらいに精巧に零崎双識を捕らえてました。もしくは、もっと言い方を変えて巧妙なことを言うならば、それは「裏面」…現実の世界でいーちゃんがもがいているならば、彼等はまた違う世界で別の騒動を起こしている。いわゆるカップリング曲です(違う!!)。

 そして私は零崎双識がいたく気に入りました。うふうふ言うてるし、「裏の世界」にしては人を殺しまくったりしないし、変態かと思ったのですが、なんだなんだ、凄いヤツじゃん。主役の伊織ちゃんが飄々としていてなかなかに気づけないのですが、カッコイイじゃないですか。戦い方とかはともかく、その心情が。「自分は兄妹達を守る」という信念。殺人鬼にはあるまじき、その思いがガッツポーズして喜びそうなくらい素敵でした。「家族を大事にしない人は不合格です」それが一貫していてニヤリとしました。真似をして「うふふ…うふ」と笑いたくなる程です。特に、ラストの方で伊織ちゃんの抱きしめながら、死に逝く直前の茶番劇はうっとりしそうな雰囲気を醸し出してました。自分の妹の為に自分の命を終わらせることに、なんの疑問もなくって…素敵にバカ野郎で素敵に兄貴です。

 そして異端児とも言うべき「人間失格」…彼が戯言を遣うとは思っていなかったので結構目をむきました。そんなにもいーちゃんって買われていたのですね、と思いました。欠陥商品のクセに…。

 「死色の深紅」については……もう何も言えません。人類最強万歳。

 ところで、ちょっと文章がくどくなっているのが目障りです。ええっと…清涼院流水みたいなくどさが。嫌いじゃないのですが、食傷するので、程々にしてほしいです。あの…同じ言葉を羅列するの、いい加減飽きてきました。そして、やたらと不安にさせるような言葉の並べ方するのも、適切な量をわきまえてほしいかな、と。

零崎双識の人間試験 (講談社ノベルス)

零崎双識の人間試験 (講談社ノベルス)