清涼院流水『彩紋家事件』上下(講談社ノベルス)

 あー、久々にこの手の荒唐無稽な探偵小説を読んだという気分です。JDCになる前の段階。「日本探偵倶楽部」の面々が活躍するお話でした。面々っちゅーか、総代と螽斯さんな。「犯罪革命」と呼ばれる事件。初期作品からその凄惨さと不可思議さが強調されていて「まだ書いてないのに、清涼院さんここまで大風呂敷広げて大丈夫なのかな?」と思っていましたが、成る程、読み切って壮大な事件だったことを把握しました。「殺人」とタイトルにつけていないことも、あの袋綴じ部分で理解しました。そして、「殺人」の方はいとも簡単に語られるあたりも、かなり衝撃でした。この人ならあと2冊は書いただろうなぁ…みたいな感じが否めませんでした。あ、でもそんなに長くても鬱陶しいか。ラストは後味が悪いのに、なんかココロの調子はいいです。青汁みたい。

 螽斯さんは、当初「コズミック」が出た時から結構好きなキャラだったので、主役チックに活躍しているのが嬉しかったです。至って普通の人に見えるのに、相当な過去持ちで、記憶がない人。初期作品では、若い探偵達からも好かれている人のいいオジサン的な立場で、あまり目立つこともないけれど、いや、今回は素晴らしい。探偵としての動きが素晴らしいのではなく、そのキャラクターが!! 愛おしいねー。もう、ユキムラさんとか佐倉さんとか、情けないオヤジスキーな人にイラストを描いてほしいくらい。探偵なのに、「まるでお手上げ」発言を連発し(まぁ奇術関連では仕方ないかもしれませんが)、奇術を見せられるたびに純粋な驚きを見せ(これがたまらん可愛い)、要所要所で妻が大好きだとアピール……。すげぇ。狙ってるいるとしか思えない。ヘタレスキー、オヤジスキーの心をくすぐります。おまけに、命を救ってくれた総代には、びっくりするくらいの忠誠心と、尊敬の念を持っているわけです。わんこです。自分の方が年上なのに、立場は総代が上なんです(まぁ総代だから当然なんだけども)。「どこまでもついていきます」とナチュラルに下僕的な発言をかまし、あげく責任を取って一緒に事務所辞めちゃうんだから、見事です。

 あと、総代は、ほんと、若い頃から格好いい!! 帝王の風格。若いのに。男としての魅力全開な人(笑) 惚れますね。人を頼ることのできる、そのことをはっきり口にできる男性はトップに立つ人間だと思えます。あと彼の師匠やジジイも、すげぇ存在感でした。もういっそ伝説のようですけど、確かに活躍?していたのが分かっただけでも嬉しい2冊でした。ラストの総代に関しては、気持ちの悪さを隠し切れませんが(というか、これはカーニバル3作のラストで痛感していたことではありますが)、それでも幸せならいいんだ……いいんだ…と思うことにしておこう。何年か前も「えええええーっ?! なんで、なんでそういう所に落ち着くわけ?!」と散々言ったので、今回はおとなしく、認めることにしよう……うん。←複雑らしい。

 若き…というか、幼い十九と龍宮は大変可愛らしかったです。聡明さを遺憾なく発揮していたので満足。しかし、このJDCシリーズを読んでいると、どうしたって「運命」というものに弄ばれている感じがして仕方有りません。ご都合主義なキャラ立ちなだけの小説だとか言われる時もあるでしょうが、私はここまで世界観を広げられて、キャラを大量発生させられる能力に敬服します。