有栖川有栖『マレー鉄道の謎』

 長編!! 国名シリーズは短篇が多いので、長いものがくると嬉しくなります。彼等の活躍は長く、長く長く読みたいので。いつまでもいちゃいちゃ…いや、仲良くしている二人が見たい。でも、同時に長編というのは火村の闇を少し暴いてしまうという同意語であって……その時ばかりは少し後悔するのです。こんな火村は見たくない、と。それでも、それが彼の魅力の一部でもあるわけですから、読者は受け入れなければならないのでしょう。まだアリスにも明かしていない、「人を殺したいと思ったことがある」という過去。ま、永遠の34才が決まっているようなので(サザエさん化)、もうしばらくはその深淵に迫ることはないと思われますが。今回は蛍の光の中、少しだけ垣間見えた彼の真意。アリス曰く、「神様に喧嘩を売っている」……そのベクトルが間違わないことだけを願って止みません。

 マレー鉄道…ということで、またテツ系かと思いきや、あんまり鉄道関係ない…。むしろ、マレーシアの自然が綺麗で、アリスのサムライイングリッシュにひそかな応援をし、アリスのオバカな推理に苦笑いし、火村先生の真剣な面持ちにどきりとし……ああ、いつも通りのシリーズだ、という感じでした。ただ、二人の学生時代のことが少し描かれていたのが嬉しかったです。大龍さんは良い友人を持ったな、とも思いました。大龍さんが疑われた時に力一杯怒ってるアリスが男前に見えました。珍しく。後味は悪いけれども(そして二人にとっても全然休まらない休日だったけれども)、楽しく読めました。

 こっからは、腐女子及びどうでもいい想像なので、反転。純粋に火村先生が好きな方は間違っても読まないように。→火村センセの殺したかったのはアリスもしくは、アリスのかつていた(と思われる)恋人ではないかと思われます。もちろん、アリスを独占したいあまりに、ですよ。思いとどまったのは、当然そんなことをしたらアリスそのものも失うから。でも失ってでも、得たいモノってのがあるんでしょうよ。…え、駄目ですか? そうすれば、色々納得できることもあるんですけど……そんな本格ミステリは駄目ですか? でも、高村薫さんだって、『レディ・ジョーカー』のラストで、加納さんにあんなこと言わせてるわけで……。アリだと思うんだけどなぁ。そういうびっくりするような恋愛論をいきなり男性の、ミステリ作家がやるというのが新しいと思うんだけどなぁ。もうちょっと穿った見方をしていいなら、殺したかったのは自分自身とかね。このままではアリスをどうかしてしまう。だから、自分がいなくなるー…みたいな(笑)あはーっ、自分で書いてて笑えた。なんだ、この今時、誰も描かないようなBLの臭い内容みたいな想像わ。

マレ-鉄道の謎 (講談社ノベルス)

マレ-鉄道の謎 (講談社ノベルス)