「きみにしか聞こえない」

 号泣でした。原作も2度ほど読んでますし、内容どころか、ラストまで知ってるにも関わらず、涙が溢れて止まりませんでした。これは、映画監督や脚本家以上に原作家の乙一氏の力量だと私は思っております。頭の中で鳴る携帯電話。相手は、遠くに住む男性。そして時差は一時間……そんな不思議で素敵な設定のもとに描かれる切ない物語です。

 原作では、「頭の中に描いたケータイ」でしたが、映画では「公園で拾った玩具のケータイ」が媒体となってました。途中からは同じように頭の中で会話ができる、ということでしたが。でも、気になるような勝手な設定はありませんでしたし、寧ろ原作を膨らますような作り方に大変好感を持てました。そして、キャストが良かったね。成海璃子ちゃんは、今まで役に恵まれてないカンジがしてましたが、これは繊細なお嬢さんという雰囲気がよく出ていて好ましかったです。凄く綺麗でした。小出くんも、最初はちょっとイメージが違うなぁ、と心配していましたが(本当はもっと色白で儚い感じでにこにこしている青年がよかった)、でもちゃんとシンヤに見えました。

 全体的なことですが……繊細なあまりに傷ついてゆく若者を大変綺麗に描いていて満足。終始甘くて切ない感じが漂っていましたが、必要以上に恋愛っぽくしなかったのも、原作に忠実で好感触でした。ただ、ひとつだけ難を挙げるならば……(ここから先は原作及び映画ラストのネタバレになるので反転)

 確か、原作はラストの「あなた、死んじゃうのよ?!」「それでも僕は助ける」という会話のあとにもう少し時間があったはずなのです。その決意をお互いが認めた後での会話というのが。もちろん描かれてませんが、確か「他愛もない会話をした」みたいな記述があったはず。そこを想像して、私は号泣したのです。数分後に自分が死ぬとわかっていてする会話、数分後に相手が死ぬとわかっていてする会話……苦しくて、でも私もつまらないことしか話せないだろうな、と思ったのを覚えています。しかも未来は不確定なはずなのに、二人はもうそれを未来に選んでしまったかのようで……。それが、映画になかったのがちょっと残念。もちろん、無理があるでしょうし、なくても破綻なんてないし、スッキリするのは解っているのですが。でも、その数分があるからこそ「私は青いワンピースを着ている」というリョウの決意が生きてきたのですよ。「あ、この子は諦めてない」みたいな意志が明確に出て。映画ではどうしても「慌てて言った」みたいな感じが否めませんでしたから。そこんとこが悔しい。

 ただ、原作にはなかったシンヤの母親との会話というのはなかなか良かったと思います。何度も何度もテープを掛けて聞いていた…という件とか、どんな声なのか、何を言っているのかしつこく聞いてきた…という件とか。ぼろぼろ涙が……ううっ。でもそうすると、未来の像が霞むというか…。「おお、成る程」と原作を読んでいない人でも納得できたのかなー…という心配がありました。
(以上ネタバレ終了)

 それから、ラストに流れるドリカムで、さらに涙ですよ。これは映画を見てから聞くべき歌です。慌てて着メロ、ダウンロードしましたもん。いやー、いい歌だ。