『漆黒の王子』

 救いのない小説というものを私はわりと評価しているつもりですが、これはなかなか…好評価しにくい。誰も救われていないし。死に勝ちみたいな雰囲気なのがちょっとなぁ。残された誰か一人でも、前向きになってくれたらいいのかもしれませんが、落とされるだけ落とされた感じでさ…。うん、黒い小説です。

 ただ、概ね好き系統なんですよ。幼い頃の約束というか間違った信頼とか友情とか、そこから発生する贖罪とか自尊心とか虚栄心とか。そういうのがテーマかと思うので。そこにミステリな要素と、ファンタジー的な要素が絡んでくるのですが、どうせなら、もっと分かりやすく見せても良かったんじゃないかな、と思います。分かりにくいのは絶対にドンデン返しがあるからだろうと思っていたのですが…(似たように書いているだけで叙述トリック駆使されていて、例えば車椅子の「ナオユキ」は「直之」とは別人とかね…)。下の世界と上の世界のリンクの仕方が分からなかったものですから、ついついそういった想像をしてしまいましたが、そうか、素直に読めば良かったのか。

 まぁそれでも「食物連鎖」というテーマはなかなか素敵でした。ドラマとかにしたら面白そう。画像は鳥だけ極彩色で、あとはモノクロとかでね。私の頭の中ではそういう絵でこの物語が進んでいきました。

漆黒の王子

漆黒の王子