海堂尊『ジェネラル・ルージュの凱旋』

これは前作『ナイチンゲールの沈黙』と対になっている話です。あちらの裏側の事情がここで語られ、こちらの裏側の事情があちらで語られ……ですので、これから読むつもりの方は、2冊を揃えてから一気に読むことをオススメします。

さて、このタイトルと表紙から想像できるのは「ドクターがヘリコプターに乗って治療に行く話」…大災害とか大事故の現場に颯爽と現れる白衣の集団…ドラマの救命救急みたいなヤツ……だと思うんですが、実は内容はまったく違います。いや、将軍が目指しているものなので間違いではありませんが、物語中で適うことはない画なわけです。将軍がいるのはICU。画面だらけのコックピットのような場所で、チュッパを舐めながら危機に備えているんです。そして将軍が白衣を翻して向かう先は災害現場や事故現場ではなく、ICUであり、会議室であり…

ただこのジェネラル、相当カッコイイです。医者としてアウトローな部分や勝手な部分はかなり問題だと思いますが、それを上回る魅力があります。患者がまず一番。だからこその越権行為。褒められたもんじゃないのは分かるけど、次々に患者を割り振って治療していくデパート火災のあのシーンは痛快でした。統率力云々じゃない。きっと神になれるかどうかの気質は持って生まれたものなのだと実感したシーンでした。

そんな将軍と同期の行灯…もとい、田口先生。今回も貧乏くじ引きまくり。マニアだと言われるだけあります。可哀相なくらいに疲れ果ててるサマが見てとれましたが、きっと実際にある会議とかもこんなカンジにのらりくらりと進むんだろうな…と思ってしまいました。でもラストは「このヒトを敵に回してはならねぇ」ってカンジです。
 それから同期三人の関係性が非常にイイ!馬鹿にしつつ心配し協力し…ああ、そうだ…戦友て感じだ。ここでがっちりAIについても描くんだからすごい。海堂さんが現役医師だからできる力業かと…。志し高い方なんだと思います。


ところで、頭の中で配役がどうしても田口センセ→堺雅人、白鳥→八嶋智人、氷姫→しずちゃん…で読んでしまうんですが、それじゃ視聴率とれませんか?脇にカッコイイヒトがいっぱいだからいいかと思うんですが…ドラマにならないかなぁ…


そういえば、「次は『ブラックペアン』を予約しといていいかな?」と母に言うと、
「ああ、次はペアンか…」
「ペアンてなに?」
「止血鉗子…正式にはペアンさんが発明した止血鉗子で「ペアン氏止血鉗子」て言うんやけどね…同じようにコッヘルさんが作った方が「コッヘル氏止血鉗子」」
「ああ、手術とかでコッヘルてよく出てくるね」
「先の形状がまっすぐなのがコッヘルで、ちょっと出てるのがペアンなんやけど、ほんまはペアンさんもまっすぐの止血鉗子も作ってはって、コッヘルさんも出てるやつ作ってはって、まっすぐのでも実は「ペアン氏止血鉗子」やったりするんやけど…でもわかりにくいから今は総称でペアンといえばこっち!てなってるん」
「ふえ〜…勉強になった!まぁ…使うことはないだろうけどな!!」


モト医療従事者がいると、こういう分からない単語が出て来た時重宝します。