「クライマーズ・ハイ」

 物語の側面というのが好きです。決して表舞台にはならない、裏側の事情というのが。これは、そんな影の部分をリアルに映し出した映画です。フィクションというのが不思議なくらいに、生々しかった。

 日航機墜落。御巣鷹山
 その事件だけを取り扱った物語はたくさんあるのでしょう。「沈まぬ太陽」とかね。
 全容というか…詳しいことを知ったのは大人になってからですが、テレビがずっとずっとそれをやっていたのはおぼろげながら覚えています。幼い頃なので、ずっとニュースだったことに「おもしろくない」と感じていたことを覚えていただけですが……。

 事故原因は何なのか、乗っていた者達の思いは、残された者達の思いは……?
 どうしてもそこにスポットが当たりがちです。
 ただ、この映画はそれを取材し、新聞にしようと奔走した新聞記者達の話です。
 架空の新聞社の話だと最後にも注釈がありましたが、きっとどこもこんな風にギリギリの戦いをしていたのだろうと想像できました。男達のプライドとか、意地とか矜持とか、懊悩とか……あの現場にはめいっぱい詰まってました。男くさく、汗臭い。良い意味でも悪い意味でも、カメラワークがぶれたりするのが気持ち悪かったです 事故現場の生々しさもさることながら、編集の雑然とした空気がこれでもかと映されていました。

 その中で、ひときわ強く弱い悠木。
 堤さんは本当にこういう親父を演じさせたら最高です。過去にとらわれつつも、意固地になってがむしゃらに頑張る姿に、じーんときました。「あんただからみんなやってきたんだ!」というようなことを周りから叫ばれるシーンがありましたが、まさに、です。こういう上司だったら怒鳴られがいもあるんだろうになぁ。

 それから、佐山。熱いしキレ者。こういう腹心の部下がいたら心強いと感じる反面、こういう人こそ自分の求める上司でなければ簡単に切るんだろうな、と。淡々と記事を読むシーンに涙がこぼれました。
 ほほえまない堺雅人が、思いの外良かったです。
 あのチャームポイント…セールスポイント?とも言うべきにこにこがなかったのは凄く評価できる。好きなので残念な気持ちはあるんですが、なくて良かった!! すばらしい役者さんだと思います。睨む姿にぞくぞくします。

 その他、とにかくごつごつした素朴な人達を配役していたのがとても良かった。きらきらしい配役はいらない。オッサンでいい。無精髭で疲れたオッサン達。コーヒーとヤニにまみれたオッサン達。大変、味があって良かったです。
 誰が一番好きだったかって、そりゃもう堀部さんですけども!! あの人癖のある嫌味ったらしい役似合うなぁ。でも料理屋のシーンからちょっと印象が変わるんですよね。悠木の敵なのかと思ったら、意外にそうじゃない。ただ、めんどくさいら上司に迎合していただけ。それが変わったのも悠木さんのおかげかな…と。ラストの方の悠木さんが上司に掛け合いやすいように、他のタヌキ親父達を足止めするあたりの所は凄く好きです。あ、ここ堀部さんほとんど映ってないですけど!! いや、男の友情というか、戦友というか、こういう「こいつのために」という暗黙の了解の行動に酷く弱いです。


 あー…好き系な3人がひとつの画面に映ってる映画て珍しいですよね。
 とにかく、オススメ。

 骨太で、男臭い、それでいて切ない。

 仕事であそこまで本気になれない自分を恥じ入るばかりです。