京極夏彦『百鬼徒然袋 風』

 相当愉快でした。思わずくすくすと笑ってしまう探偵小説です。しかし、探偵小説と銘打っておきながら、探偵は…おおよそ探偵らしからぬ行動をしています。相変わらずの破壊神です…榎木津礼二郎…。そして巻き込まれる下僕達。今回も不憫な本島君が描かれていました(ようやく2作目にして名字が分かりました)。

 あいつと関わるな、という忠告を無視して…というか、そうしたくてもできなくて、どんどん巻き込まれる普通の人間の本島くん…。自分は普通なのに…と思い悩む所が不憫でした。朱に交われば赤くなる…という言葉を彼に授けたいところです。とことんの下僕体質で普通人。常識人で真面目な彼。だからこそ浮いた存在に見えてしまうのが不思議な所。この小説に出てくるのは、きまって変人奇人ばかりなのです。薔薇十字社の面子然り、その友人、下僕然り。そして巻き込まれる事件も不可思議なものばかり。関口くんならもう彼岸もいい所の事件ですが、本島くんはまだまだ普通の人ですから、結構それでもしどろもどろになって食いつこうとするのですよね。いい人です。そして可哀想です。

 しかし榎木津、暴れまくりでしたね。敵が弱いとつまらないと言いつつも大暴れ。ケンカ強いな〜と改めて思いました。むしろ、神無月さんとか可哀想に見えましたものね。

 一番好きな話は最後の「面霊気」です。怪盗猫招き……「にゃんこ!!」…とんでもなくバカですよ、あの男。だけど榎木津なら許されるんでしょう。こまった男です。でも、実は実はそんな傍若無人、天衣無縫な姿も仮面であった…というラストの京極堂のうんちくに「おおっ!!」となりました。成る程、実は周りの人間を大事にする心もあるのかもしれない…。ただ、読み終わって、本を閉じてからふと、あの面が手に入ったということは、きっと関口くんとか鳥ちゃんとか本島くんとかを鬼にして、鬼いじめをするんだろう…とかいう予想が……。本島君は、いい加減普通の生活を諦めて、下僕を名乗るのがいいことかと思います…。

百器徒然袋 風 (講談社ノベルス)

百器徒然袋 風 (講談社ノベルス)