『星の降る夜〜番外編〜』

『よぉ、ひさしぶりー。元気しとった?』
 何年かぶりに聞いた親友の声に、陵は安堵するというより呆れた。
「お前は元気やな」
 色々言いたいことがあったけれど、その一言で電話の向こうの鏑木は分かってくれたらしい。相変わらず鋭い男だ。
『やー、ごめんて。怒らんといてーや。連絡せんかったのも、しばらく京都離れてたんも、ぜぇんぶ、ホンマは理由があんねん』
「30文字以内で説明してみぃ」
『愛』
「一文字か」
 鏑木はけらけらと笑っていた。29文字分は、その笑い声で埋め尽くされたというわけだ。
「別に構まへん。お前がいつ誰と結婚して子供作ってようが、どこで妙ちきりんな仕事に就いてようが、俺は何も気にしとらんわ」
『死んでても?』
「香典くらい出したる。昔馴染みで」
『花輪ちゃんと送ってや?』
「死にたいんか?」
『生きてるから電話してるに決まってるやん。オレは陵のこと気にしてんでー。いつ娘さんが優秀な外科医と付き合いだしたかとか、どこで愛しの美鈴さんと知り合ったんか…とか』
 陵は一瞬電話を耳から遠ざけた。そして気付かれないようにうなだれて溜息をついた。
 親友は、昔から不思議に充ちている。何の情報も開示していないのに、次々とまるで見てきたかのように言い当てる。勘なんていいもんじゃないことを陵はよくよく知っていた。地獄耳とでも言うのか、千里眼とでも言うのか、とにかく鏑木には隠し事はできない。たとえ何十年離れようと、その力は健在らしい。
「また近いうちに来い。娘と、その彼氏が会いたがっていた」
 多分、名前は言わなくても分かっているだろう。陵よりも鏑木の方が彼とは関わり合いが深かったはずだ。
『うん。行くわ。…なんとなーくな、また協力してやらんとあかん感じらしいから。未来を担う若者は、守ってやるんが年長者としての務めっしょ』
「お前、厄介事にわざわざ巻き込まれに来るつもりか?」
『親友の、義理の息子になろーかとしてる彼と約束したからな。まぁいて邪魔にならんと思うで。運転手でもなんでも使われたるし。…しかも無償で』
「恩売るつもりか?」
『その発言は懐かし過ぎて嫌ーなもんがある。ほら、クリスマスプレゼントや。そういうことにしとけ』
 サンタクロースにしては、神聖さがない。陵は「靴下はいらんな」とだけ告げて、その申し出を受け入れることにした。