怪奇譚シリーズEX「太陽は眠らない」

 非常階段を足早に駆け下りながら、清水は言いたかった文句をようやく吐いた。

「大介、お前さぁ……少しは考えて行動するということをした方がいいぞ」

「うっさい!! わかっとるわ! 百も承知じゃ!」

 しかし大介の声は勢いとは裏腹にとてつもなく小さなものだった。

 当然だ。2人は今、敵対している組の本部にいて、なおかつ逃亡劇を計っているのだから。大声を上げて所在を明かすわけにはいかないのである。

「今年で何度目だ? 誘拐される可能性があることが分かっているなら、堂々と自分の組の人間を使えばいいじゃないか。若の警護くらいお前の周りの人間はお手の物だろうが」

「若言うな!! お前に言われると腹立つ!」

「…仕方ないさ。雇われたんだから。なんならぼっちゃんとでもお呼びしましょうか?」

 清水はニヤリと笑いかける。走り続けているのに、少しも息があがっていないことが大介にはさらに憎らしかった。

「夜勤明けに、何させるんだって感じだよな。お前の親父さん。…と陵さんも」

 ようやく恋人と何日かぶりに再会できると思った矢先の電話。内容は6代目の命と、組の未来を救えということ。端的で、抽象的で、けれど高圧的で無視できない言葉遣いだった。

「金は払うって言ってくれてたから。まぁマンションくらい貰ってもバチは当たらないよな…未来まで救えってんだから」

 そこで大あくび。大介は本当にやる気があるのか、と不安を感じた。だが不安に感じるということがそもそも彼を頼りにしているということのようで、慌ててうち消した。