『彩雲国物語 黒蝶は檻にとらわれる』

 少女小説ライトノベルで…て、偏見にとらわれる人がいると思うのです。由羅さんの絵も綺麗ですし、表紙で誤解されるかもしれない。NHKでアニメをやっているから余計にそういう目で見る人がいるかもしれない。でも、これは十分に「歴史小説」として成立していると思うのです。もちろん架空の国の、ですが。そういった意味では、若い読者がついてこれるのか不安になるくらい。難しいっていってるんじゃなくて、複雑。ちゃんと政治経済倫理が絡む。恋愛話もあるのに、家族でほのぼのもあるのに、ファンタジーなのに、一言で言えば、「女の子が頑張る話」なのに………余りある、世界観の広さ。今回は特にそれを感じました。「オールスター」とかあとがきで書いておられましたが、いやいや、それ以上に……なんていうか……凄い。人の思惑が絡み合って、はらはらしどおしでした。

 ただ、今回は尋常じゃなく泣きました。

 ラストは、やっぱりくっついて欲しい。できるなら、2人の子が見たい。……そう夢見てました。ファンタジーなんですから、いいじゃないですか。そういう奇跡な展開があっても。ただ、政治としての「婚姻」と、迫り来る「死」がそうはさせない。これでもかこれでもかと頑張ってる2人を追い詰める……その怒濤の展開に、作者を恨みそうになりました。でも、2人がそう決断をしたなら…仕方ない。2人が久々に対話をするシーンは、きつかったです。

 それよりも、何よりも私が涙したのは邵可さんの決断ですが。うん、こうなることは予想してました。ただ、彼の一人称になると、もうたまらなく泣けます。のほほんと暮らしているのか似合う父が、娘と、その娘が認めた王のために立ち上がる姿に、嬉しいような哀しいような気分になりました。それを望んでいたはずなのに、この人はまた誰かのために自分を犠牲にするんだろうか…なんて。守りたいもののために、捨てるものがある。それは分かるのですが、キレ者は違いますね。でも、私は黒狼として命を賭す未来の方を想像していたので、紅家当主として牛耳っていく姿の方が、まぁ見応えはありそうですね。

 悠舜さんが……どうなるのか…………私、すごい好きだっただけに、なんか複雑です。これも嘘ならいい。もう何も思わずに、ただ王のためにを思っての行動であったらいい。敵を惑わすために、まず味方から…というならね。だって、あんな素敵な奥さんまで騙して、それで復讐しようなんて、そんなの信じられないもの。

 燕青とタンタンくんの活躍が期待される次巻。はやく読みたいです。若者達が秀麗の姿に変わっていく…その軌跡をもうちょっと見てみたいとも思います。