赤江瀑『狐の剃刀』

 久方ぶりに赤江瀑を読みました。あまりに久しぶりすぎて、読み方を忘れた感じもあり…。空気にどっぷりと浸かれない自分にヤキモキしました。それか、ちょっと作風が違うのかな? 私が求める赤江瀑作品というのは、もっと茫洋として、なのに蠱惑的で、妖艶な赤黒い空気を孕んだものなのです。見ている方が痛くなるような「狂い」が、いまひとつだったかな、なんて。幻想小説の棚に置かれているくせに…みたいな。ま、これは好みの問題でしょう。

 しかも、全編京都をモチーフにした話だし。京都と山陽はよく出てきますが、ここまで京ことばを強調されるとちょっとしんどい。これが他府県に暮らす者ならともかくねぇ…みたいな。風景も簡単に思い描ける分、なんだか楽しみが削減された感じでした。

 で、一番好きなのは最後の『夜を籠めて』です。これ、私好みのドキドキするオチですよね。有り体に言ってしまえば、また男色の世界をちらりちらりと匂わせる…という感じなんですけども。「愛」と「エロス」の境目がぼんやりしていて、なんとも言えない感じです。そういう意味では『阿修羅の香り』も、ラストの持って行き方にどきりとさせられます。阿修羅を追い続けている幼なじみに炙られるように、自分もその阿修羅を探し続けて……そして最後に彼の顔に見たのは……。しかも、コレ、お互いに年をとってから…というのが素晴らしい。身体の奥がざわざわします。BLとか平気で読む自分にとって、こうした徹底的に明かさない、匂わせるだけの男同士の愛憎って、逆にいやらしく感じるわけです。

狐の剃刀

狐の剃刀