あ、まだ寝る時間には早かったので、「いきなり名場面」でも。蘇枋ちゃんが書きたくて仕方ないので…。


 好きで、好きで、それだけがオレの全て。彼女がいないと、オレの心はガタガタのボロボロになってしまうという予感があった。知っていたんだ。確信犯だった。
壊れたら楽になる。分かっていて、オレは壊れた。
 壊れていて正解だと思う。正気なら、きっとオレは透子を殺していた。そして檀も。大事なモノを全部自分の手で葬って、そして自分も死を選んだに違いない。実際、手術でミスをしたのはわざとか、そうでないのか…自分でも曖昧なくらいだ。それでも死を選ばなかったのは…
『お前を殺してやる!!』
 たった一人の息子は、壊れかけのオレを人間として扱った。親友でさえ半ば諦めていた、“日吉蘇枋”という人間に執着した。怨まれて良かった。そうして、自分のミスを責め続ける者がいる限り、オレは透子とつながっていられる気がしたから。甘美な誘惑だった。好きだという想いを抱いて死を選ぶよりも、まだ尚、好きで居続ける道を見つけてしまった。
 ごめん、檀。お前に生きるという欲望を持たせたいがために、狂人じみた人格を演じていたわけじゃない。最初は全部、自分のエゴで、ワガママだったんだ。

「父さん、ソファなんかで寝てないで仮眠室でも行ったらどうですか?」
 揺り起こされて、オレは渋々目を開いた。目の前には、メガネを掛けた小生意気そうな白衣の医者が一人。
「……檀? ……お前、老けたなぁ…」
「息子に言う台詞ですか?」
 檀はしかめっ面をして呆れた声を上げた。
「ああ、いや、悪い。夢見てて。…懐かしいな…最近はもうあまり見なくなったのに…」
「…お母さん、ですか?」
 透子。成長した檀の中で、彼女はどんなイメージを保っているんだろう。神聖な母親の像なんだろうか? だとしたら可笑しい。そう思いながらオレは首を振った。
「いや、むしろお前の夢だ。昔のお前は可愛かったな。うん、でも透子に似ていなくてよかったよ。また別の壊れ方してそうだ。だけどこうも自分に似てくると不気味だけど」
「ああー…年輩のドクター達によく言われますよ。学会とか行ってもびっくりされますし……そんなに似てますかね?」
「似てないよ。お前は強いから」
 檀は分からない、というように首を捻った。